『やっと気がついたみたいだね!』


        後ろから声が聞こえた。だけど何を言ってるのかわからない。ザナルカンドの言葉じゃ
        ない。これがさっきティーダの言っていた「変な言葉を喋るヤツ」なんだとわかる。
        後ろを振り向いてその人物を確認すると、何人かの強靭な体の男と私よりも背の低い
        どう見ても少女としか言えない子が立っていた。


        『・・・やっぱり、私の言ってる事、わからないよね?』


        私とティーダは理解できずに顔を見合わせて肩をすくめた。


        「ごめん、アルベドじゃないのに無理だよね。・・・って、もしかしてこの言葉でも通じな
         い?」


        女の子は私達に近寄ってきた。
        大丈夫、この子は優しい子だよとティーダに目で合図した。ティーダの方もちょっと戸
        惑ってるみたいだけど、今のこの状態を怖がってるわけじゃなさそうだ。


        「平気、通じてます!」
        「ああそう、よかった。ところで、何で君達あんなところにいたの?」
        「俺達もわかんないんだよ。ここがどこで、どうしてここに辿り着いたのか。たぶん『シ
         ン』が・・・」
        「『シン』!?」


        女の子が驚いた声を出した。通じなかった言葉、わけのわからない船や遺跡。ザナ
        ルカンドにはなかったものがたくさんあったのに、ひとつ共通するものがあった。
        『シン』だ。
        この子も、『シン』を知ってる。


        「もしかして、君達『シン』の毒気にやられたのかな・・・」


        お気の毒に、と彼女は目を伏せた。


        「毒気?」


        ティーダは眉を顰めた。


        「そう、毒気。頭がこう・・・グルグルになっちゃったんだよね?」
        「何だよそりゃあ!」


        ティーダが怒ったような声で彼女に抗議しようとしたけど、私はティーダの腕を押さえ
        て彼を静めた。


        「・・・とりあえず、この船まで運んでくれたのにはお礼を言うよ、ありがとう。あの化け
         物から助けてくれたのもあなた達でしょ?」
        「どういたしまして、そんな大したことはしてないけど。貴女が倒れてからそこの少年
         がやけに怒ってさ。すごい大活躍だったんだよ、ねえ?」


        少女はティーダに相槌を求めても、ティーダは何だか気まずそうに顔を背けた。


        「い、いいからさそういう事は!それより、貴女のお名前は?」


        そういえば、そうだった。色んなことがありすぎて、私達は彼女の名前を聞くのを忘れ
        てた。彼女は私達とは違う綺麗な変わった色の瞳をパチパチとさせて、「ああ!」と
        大声を出した。


        「そういえば言ってなかったね。私はリュックだよ!リュック!」
        「リュックッスね!俺はティーダっていうんだ!」
        「私はだよ、よろしくリュック」


        お互い軽く自己紹介をした。そのときリュックが「頭グルグルなのに名前は覚えてる
        んだね」と言ったことで、またティーダを怒らせた。


        「そうだ!君達に、手伝ってほしい事があるんだ!『アレ』をちょちょいといじれば、動
         かせると思うんだよね〜」
        「アレ?」
        「うん、アレ」


        リュックは海の下を指差した。つまり、それをいじるってことは、そこまで行かなければ
        ならないということで。


        「何で俺達がそんなことしなきゃなんないんスか!?」
        「だって君達使えそうなんだもん。が気絶してるときにティーダから聞いたんだけど
         って黒魔法使えるんでしょ?ティーダだって剣の扱い悪くないし。ね?手伝って
         くれたら何か食べ物恵んであげるから!」


        結局、抗議を唱える隙もなく、私とティーダはリュックの言われるがままになっていた。

 


        海の中へ潜って少しすると、ピラニアの大群に私達は囲まれてしまった。そこへリュッ
        クが手榴弾を投げつけ、それでもまだ生き残っていたピラニアをティーダが斬り付け、
        私がサンダーを放った。


        「完璧なコンビネーションじゃん!」


        そう言うリュックにティーダと私はグッと親指を立てる。
        いつの間にか私達は和んでしまっていた。見ず知らずの人間にそこまで気を許すわけ
        にはいかないとわかってはいるんだけど、それでも助けてもらったし、何よりリュックの
        人柄は少なくともアーロンよりは良いはずだ。アーロンが悪人というわけではないけど。


        「さ、この調子でどんどん行ってみよー!」


        私達はそのまま泳いでいき、とうとう海の底に眠っていた大きな機械を目にした。


        「この中に入るの?」
        「うん、もしかしたらピラニアより強い魔物がいるかもしれないから、気をつけてね」


        特にティーダ!とリュックはビシっと彼を指差した。ティーダは何だかソワソワしながら
        キョロキョロとあたりを見回していたのだ。なんて危なっかしい。


        「何してるのティーダ?」


        私が尋ねてみると、ティーダはやっとこっちを見た。何だか呆けてる顔でひどくマヌケ。


        「いや、何か声が聞こえたんだ。『ごめん』とか『待ってる』とか」
        「は?私には聞こえなかったけど」


        微妙に心当たりはあるけど。もしかしたらあのフードをかぶった少年かもしれない。
        でもなぜその声をティーダも聞けたのか?


        「幽霊でもいるんスかね?」
        「・・・そうかも、ね」


        これ以上わけのわからない事はごめんだ。それにいい加減、ここが何処なのかはっき
        りさせておく必要がある。船に戻ったらリュックに問いただしてみよう。
        リュックが前方で私達を大声で呼んでいるのに気付き、私はまだ戸惑ってるティーダ
        を置いてリュックのもとへ泳いでいった。