月のようなその人は、冷たい瞳をしていました。美しくも、悲しい人。彼の中に『何か』があると私は直感した。そし
て、どこかしら私と似たような部分があるのではないかと思ってしまう。私の中に流れる『何か』がそう叫ぶ。私で
はない私が。
First Contact 4 虚無
「、どうやってあそこから逃げ出した!?」
ロットの声が私の耳に入ってきた。この人は、私の力を知らない。私のこの腕が軽々と大柄の男を持ち上げること
ができるということも。だから相当、今、焦っているに違いない。普段の落ち着いた雰囲気がぶち壊されている。
「おまえが、市長の娘か?」
銀髪の人が私を見つめる。その瞳が私に向けられている。それが何だか落ち着かない。ロットも美形なんだと思う
が、私はこれほど美しい人を見たことがないからだ。
「そう、です・・・」
消え入りそうな声で返事をすると、彼は私の周りに倒れているロットのガード達をちらりと見た。
「なるほど。市長の娘にしては常人よりも強いらしいな。ちょうどいい、おまえなら大丈夫だろう」
「?何が・・・」
「おまえは入り口まで走れ」
彼はそう言うや否や、ロットに攻撃しはじめた。彼の尋常ではない動きに私は、彼はソルジャーだということを確信
する。一つ一つの無駄のない動きが美しい。しばし見惚れてしまったけど、彼がこちらをジロ、と睨むように見てき
たので急いで彼とロットのいる方向とは逆に走り出す。
「待て!君は俺と結婚するはずだろう!?俺の妻になるんだろう!?」
ロットは彼と戦いながらも、そんなことを叫んだ。でも、無理に決まってる。どうして私が、父親を殺した男と結婚し
なければならないのだろう。
「おまえとは邪魔する奴がいないところで決着をつけたいところだ。・・・サンダガ!」
私は後ろで何が行われてるかよくわからなかったけど、どうやら彼がサンダガを放ったらしい。私は正直焦って思い
っきり入り口の扉を蹴破って、屋敷から脱出した。サンダガの威力は見たことはないけど、本で知っている。ファイ
ガではなかったことは唯一の救いだった。
(・・・あの人は?)
彼が無事に屋敷から出られたのか、私は不安になる。少し破壊された屋敷を外から眺めた。すると入り口から銀
髪の彼が出てきた。瞳は鋭く、ロットの方が悪者のはずなのに、どうしてか彼が悪者に見えてしまう。それほど彼
には威圧感があったのだ。
「ここから離れるぞ」
付いてこい、とだけ言い放ち彼は足早に歩いていく。いや、別に彼は急ぎ足なわけではないのだ。彼の長身と足
の長さが歩く速度を自動的に速めている。私は走りながら剣を抱えなおした。
彼はセフィロスと名乗った。ソルジャー1stクラスだとも。私にはクラスとかよくわからなかったが、あのロットの実力
もおそらく1stクラス並だとセフィロスは説明した。ひとまず私達はセフィロスがとっていた宿屋に行った。宿屋のお
じさんは私の姿を見るや否や大喜びし、客達と一緒に拍手をした。私は何だか照れくさくも涙ぐんできたのだが、セ
フィロスがそれをぶちこわした。彼は私の腕をひっぱり、無理矢理個室の中へいれた。男の人にこんな扱いはされ
たことなかったので、どうしていいか戸惑った。
「おまえは何者だ?名前は、と言ったか。あの男に捕らわれていたのはなぜだ?」
「・・・よくはわからないわ。でもロットは私にしつこく求婚して、そのたびに私は断ってたから・・・」
ロットが現れたのは突然だった。ある日いきなりイリアムにやってきて、いきなり私にプロポーズをした。父もロット
を決して認めようとはしなかった。そして、ロットがイリアムに来て数週間後、父が私の目の前でロットに刺し殺され
たのだ。後ろから串刺しにされた・・・私の父親の無残な姿。この目に焼きついて離れない。
「おまえには聞きたいことがたくさんある。まず・・・そうだな。この街に最強魔法のマテリアがあるはずなんだが、
何か知らないか?」
「・・・ロットも同じことを言っていたわ。確かにそんな伝説もある。『ホーリー』とか呼ばれてる魔法ね。でも残念なが
ら・・・」
この街の誰も知らないの、と私は口にした。確かそれは白マテリアと呼ばれている。この事は私の父親が詳しかっ
たはずなのに、今はそれを聞く事も叶わない。
「・・・ロットを殺したいか」
セフィロスの声が私の頭の上でする。冷たそうな人なのに、声が何だか優しい気がするのはなぜだろう。
「どうして、そう思うの?」
「ロット、という単語を口にするたび、おまえの瞳は憎悪に染まる。恐れも悲しみもない、憎しみだけがおまえを支え
ているようだ」
「・・・あたりまえよ、もう何も残っていないもの。ロットを倒す以外、私に生きる術はない。それに私はロットを倒す力
もない」
苦し紛れにそう口にすると、頭に何かが乗せられる。それは、冷たくも温かい、セフィロスの手だった。無表情なセ
フィロスは、私の手にいくつかのマテリアを持たせる。
「全てマスタークラスのマテリアだ。それをおまえの剣につけ、俺について来い」
中途半端な彼の優しさが、私にはつらい。そのまま彼に寄りかかってしまいそうで。