シーモアが愛してるのは自分だけだと思っていた。ヒトとグアド族とのハーフであるシ
        −モアは、ジスカル様のことを快く思っていなかったのを私は知っている。彼が微笑む
        のは私にだけ。本当の優しさが溢れている笑みは、私にしか一生向けられることはな
        いだろうと思ってた。そう信じていたかった。それなのに、なぜ。

 

 

       哀しむ貴女に花束を添えて

 



        私の唯一の召喚獣、シヴァがブリザガを放ち、巨大な魔物は氷付けにされ消え去る。
        幻光河北岸の道に強力な魔物が出るというので退治にやってきたのだ。だけど雷平
        原に出る鉄巨人よりは格下なので案外あっさりと片付いてしまった。もしかしたら、わ
        ざわざ召喚獣を出さなくてもホーリーで十分だったかもしれない。


        「・・・あの、召喚士の方ですか?」


        綺麗な声が、響いた。


        ゆっくりと後ろを振り返ると、そこには可愛らしい顔立ちをした少女。そして彼女の後ろ
        には三人のヒトとアルベドにロンゾ、そして赤い服を着た男性。彼には見覚えがある。


        「そうですけど。もしかして、ユウナ殿でしょうか」
        「はい。あ、あの・・・あなたのお名前は・・・?」
        「と申します。そちらの方は伝説のガードのアーロン殿では?」


        私がアーロンにそう尋ねてみても、彼は返事をせずにただじっと私を見てきた。そんな
        彼に金髪の少年が小突いていたが、私はあまり気にはせずにユウナと会話をした。
        寺院で染み付いてしまった作り笑顔で彼女に接する。心の中は嫉妬心でいっぱいだ
        ったのだから、作った笑顔をするのは当たり前だ。


        「今の召喚獣はマカラーニャ寺院の・・・ですよね」
        「ええ、そこで私は召喚士として修行していたものですから」
        「『シン』を倒すために旅をしているんですよね?・・・ガードの方はいらっしゃらないん
         ですか?」
        「俺もそう思った。ガードがいなきゃ、誰が召喚士を守るんだ?」


        ユウナの問いかけの上に、金髪の少年が続けて質問を投げかけてきた。まっすぐな
        少年に多少羨ましいという感情を抱きつつも、冷静に召喚士らしく受け答えする。


        「私はまだ旅に出ていないんです。最後の旅になるのでしばらくはグアドサラムに滞
         在する予定でして。しばらくしたらガード探しにベベルへ向かおうと思ってます」
        「そうなんですか・・・」


        可愛らしい召喚士。その整った容姿は羨ましかった。それに彼女の強い絆で結ばれ
        たであろうガード達。私には今はシーモアしかいない。仲間と呼べる人がいない。


        「あのさ、・・・だっけ?」
        「ええ、なんですか?」
        「あ、俺の名前はティーダっていうんだけど」


        そう言って金髪の少年―――ティーダは頬を掻きながら私に問いかける。私が召喚
        士だからなのか、少し緊張しているような雰囲気が感じられた。


        「最後の旅・・・って何?それにさ、他の召喚士が『シン』を倒しちゃう前に早く出発し
         たほうがいいんじゃないッスか?一応、ユウナのライバルだろ?」


        すぐにわかった。彼はわかっていないんだ。『最後』という意味。『最期』とも呼べる旅
        がどんなものか。気楽に各地をまわるような楽しいものではないということを。笑って
        旅できるようなものではないことを。愛する人に、二度と会えなくなる旅だということを。
        ユウナの表情もどこか沈んでる。


        「確かに私はユウナ殿のライバルですね。彼女より早く『シン』を倒したいともちろん思
         っていますよ。しかし・・・そうですね、なんと説明したらよいか。最後の旅というのは、
         『シン』を倒して大召喚士となったら、もう安易に旅に出ることができなくなるという
         意味です。有名人になってしまいますからね。だからゆっくりと準備を整えてから旅
         を始めたいのです。それに、最後に『シン』を倒すのは一番実力を伴っている召喚士
         です。早く旅に出発することが必ずしも『シン』を倒す近道とは限りませんから」


        だから、絶対に私が『シン』を倒す。


        口には出さなかったけど、その思いが伝わったのかユウナは凛とした表情となる。そ
        れを見て私は微かに微笑み、ティーダに「わかりました?」と聞いた。


        「ふーん・・・いろんな考え方の召喚士がいるんスね。ドナっていう召喚士なんか、ユ
         ウナのことすごいライバル視してきたもんな」
        「ドナ殿ですか・・・一度もお会いしたことはありませんが・・・まあいろんな召喚士がい
         るのは当然でしょうね」
        「もうお喋りはそのくらいでいいだろう」


        私とティーダの会話にアーロンが割り込んできた。待たされたことにイライラしてきたの
        か、私をまるで睨むかのように見てくる。


        「俺達はグアドサラムに向かう。お前もそこへ向かうのなら案内しろ」
        「ええ、喜んで」


        こちらです、と先頭を歩く。一人旅をしていたころに危険をすばやく察知するため飛躍
        的に伸びた五感のおかげで、ティーダとオレンジ頭の男性の会話が微かに聞こえて
        くる。


        「あの召喚士、ちょっとシーモア老師と話し方が似てねえか?漂ってくる雰囲気も似て
         るしよ」
        「そうスか?シーモアのことは気に食わないけど、あの子のことは俺けっこう好きかも。
         何ていったってかわいいし」
        「おまえ・・・ユウナのこともかわいいっつってなかったか?二股は男として駄目だから
         な!」
        「別にそんなんじゃねえって!いてててて!」


        小声で話していたのが、徐々に大声になっていった。私は思わず口元が緩んでしまう。


        こんな人達が自分のガードだったら、楽しく旅ができるのかなと思った。こんな人達が
        傍に居たのなら、6年前、私はあんなに過酷な旅はしなくてもよかったのだろうか。ず
        っと『シン』を倒すために力もないくせに召喚獣を手に入れようと躍起になっていたあ
        のころの荒れていた私は、存在しなかったのだろうか。そう思うと、何だかやりきれな
        い気持ちになってしまった。