私だってあのとき、どんなに怖かったか。それを君は知っていたのかな。


        とティーダは燃える炎をじっと見つめながら、「大丈夫」「帰れる」とお互いに励
        まし合っていた。しかし、二人の心には共通の恐怖。怯え、そして故郷への恋しさ。ど
        んなに強がっていても、心の中は本音を隠しきれない。次第に口数も減っていって、
        ついには黙り込んでしまった。


        あたりがしんと静まり返って長い沈黙が訪れた頃。カサカサ、と何かが物音を立てる
        音が二人の耳に届いた。バッ、と二人は物音が聞こえた後方へと顔を向ける。する
        とそこには、四本の足を持った一匹の魔物がいた。


        「な、なんだよ!また魔物か!?」
        「私達を襲おうとしてるよね・・・どう見ても」
        「んなことわかってるって!逃げ・・・っつっても、どこにも逃げ場はないか」
        「じゃあやっぱり・・・」


        とティーダは顔を見合わせ、頷く。そしてティーダは剣を構え、は魔物の攻撃
        を防ぐように構えた。


        「「戦うしかない(ッス)!」」


        魔物が大きくジャンプし、ティーダめがけて爪で裂こうとする。それをティーダは横に
        跳んで避ける。そしてすかさずが魔物めがけてファイアを放った。魔物は苦しみ出
        し、そして攻撃の対象をティーダから彼女へと変えた。


        「危ない!」


        ティーダが叫んだのもむなしく、は魔物の攻撃を正面から食らい床に激しく打ち
        つけられる。


        「うっ・・・」


        は呻いて、そのまま気を失った。頭を強く打ってしまったからだ。


        「!」


        ティーダは気絶した彼女を目の当たりにして、ひどくショックを受けた。自分が守ると
        決めたのに。どんなことがあっても・・・必ず。

 



        は暗闇の中にいた。一人ポツンと佇んでいた。夢の中にいる、すぐにそれがわか
        った。そして今の自分には不思議な力があるということも。誰かが必要とするのなら
        全ての力を解放できる。この暗い洞窟の中から『私』を出してくれれば。でも本当は
        待ってる。本来の私の待ち人を。『彼』が来てくれれば、『私』は―――。


        「やっと来たね」
        「・・・誰?」


        少年には見覚えがあるような気がする。そう何度も会っていないと思うけど、でも確
        かに会ったことはあるんだ。夢の中で?


        「今は言えない。もちろん彼にも」
        「君が・・・私達を呼んだの?」


        長い夢を見ているような気がする。長い長い夢。途方もなく、螺旋のようにぐるぐると
        まわりながら、まるで旅のような夢。


        「僕じゃないよ。君自身がここに来ようとした。だから来ることができた。でも彼の場合
         は違う。彼は導かれてきた。『シン』が彼を呼んだんだ」
        「わけがわからないよ。私も『シン』に呼ばれたんじゃないの?」


        少年はふっと悲しそうに微笑んだ。そのフードの下の瞳は、私の何を知っているとい
        うの?


        「旅を続けていくうちにきっと辿り着く。夢の終わりに。そして君は目覚める。そのとき
         に全てがわかるよ。どうして君が魔法を使えるのか、君を呼んだ『君自身』のことと
         か」


        そう言って少年は消えた。でも、彼の言っていることを何一つ理解することができな
        かった。ティーダは『シン』によって、この遺跡のような場所に呼ばれたんだ。だけど
        私の場合は違う。私自身が呼んだ。・・・なら、本当の『私自身』は、『ここ』にいる?
        私の存在する場所はザナルカンドではなかった?


        駄目だ、頭がおかしくなる。


        私はそのまま、その場で倒れた。


        「!?」


        ティーダの声が近くで聞こえる。それに安心して、少し口元が緩んだ。そして次には目
        を開けてみる。すると、そう離れていない距離にティーダの顔があって、ティーダも同じ
        ように微笑んだ。


        「あー・・・よかった!全然目覚まさないから、すごい心配したんだぞ!」
        「えへへ、ごめん。さっきは油断しちゃったよ。ところで・・・ここはどこ?」


        辺りを見回してみると、今いる場所はさっきの遺跡じゃない。船の上のようだ。空と海
        が真っ黒く、船の色も同じような色で不気味な雰囲気。


        「俺もよくわからない。変な言葉を喋るやつらに連れてこられた。俺、殴られて気絶
         しちゃってさ」
        「変な言葉?・・・ますますザナルカンドとは遠い場所に来ちゃったってことなのかな」
        「だろうな」


        二人は起き上がって、船の上から海を眺めてみる。こんな暗い海は、私は知らない。


        「もう、さ。この現状を受け止めるしかないんだよね」
        「何ッスか、急に」
        「ここはザナルカンドじゃないし、何か知ってそうだったアーロンはいない。頼りになる
         のは私達二人だけ。幸い、武器や魔法は使えるし」


        きょとんとしているティーダにちょっと微笑んで見せて。これは私の精一杯の強がり。


        「ブリッツは弱さを見せたら駄目なんでしょ?今もおんなじ。足掻いて足掻いてさ、ザ
         ナルカンドに帰ろうよ。やるだけやってみよ」


        そう言って右手をティーダに差し出して。


        「そうッスね!」


        一言だけ彼は言って、そしてにっこりと笑って私の手をとった。お互いにぎゅっと手を
        握り締め、微笑んだ。