魔晄炉のある街、イリアム。私はそこの大きな屋敷で生まれ育った。家や店が立ち並び、平和な日々を送ってい
      た。いくら物足りない日常でも、それが平穏であり必然でもあった。しかし今では、私は牢の中にある小さな窓か
      ら昼間は燃えるような太陽を、夜は神秘的な月を見上げる事しか出来なくなった。それが苦しくもあり、ひどく退屈
      で毎日が億劫だった。

      誰か、誰か助けてください。この暗い牢獄の中から。

      あの月のような冷たい人でもいいから。





      
First Contact  1 英雄





      セフィロスはプレジデント神羅の命令でイリアムという街に来ていた。任務は魔晄炉の調査。どうせたいした仕事
      でもないのに自分を使うのはやめてほしい、とセフィロスは常々思っていた。あの社長は何かと自分を頼ってくる。
      うんざりするほどあの社長には愛想が尽きているが、だが仕事は仕事だ。すぐに終わらせてしまえばいい、と彼
      は思った。神羅兵が運転する車から降り、セフィロスはとうとうイリアムの土地を踏んだ。ミッドガルからはかなり
      遠いこの街。だがそれなりに栄えており、道もちゃんと舗装されている。街には家や店が立ち並んでいる。だが、
      人々に活気がない。皆暗い表情をしており、セフィロスはすぐに異常に気が付いた。

      (面倒だな・・・)

      だがそれはセフィロスには関係がない。さっさとイリアムの街の向こうにある山の魔晄炉を見てくればいいのだ。
      セフィロスはイリアムの街を歩き出した。

      (静か過ぎるな、この街は)

      静かなのはむしろ好ましいが、だがこんなにも静かな人の中を進んでいくのは初めてのように感じた。これは本当
      に街なのか?まるでここは神羅ビルだ。静けさの中で人が生きている。

      「市長の娘さんも可哀想にね」
      「ちゃんでしょう?あんなところに、ねぇ・・・」

      聞き取れるか聞き取れないかぐらいの小声がセフィロスの耳に届いた。女性二人の会話。彼女達はビクビクしな
      がらも、哀れみながら口を開いている。

      (・・・市長の娘?)

      あぁ、そうかとセフィロスは納得した。きっとその市長の娘に何かあったため人々はこうして慎ましく暮らしているの
      だろう。

      (よくわからんな、他人のことでここまで街が変わるとは)

      しかし自分はどこか感情が欠落している部分がある。だから理解できないのだ。セフィロスはそのまま街を通過し
      た。




      ニブルヘイムなどの魔晄炉と同じように、イリアムの魔晄炉も山の中にある。道中にはモンスターも出るだろうが、
      そんな心配など皆無に等しい。正宗があればそれで十分だ。

      しかし、セフィロスの前に意外な壁が立ち塞がる。山へ入る道に警備員らしき人間が5人ほど銃を構え立っている。
      奇妙だ。神羅兵ではないし、このような体制がしかれているという報告は入っていない。セフィロスはその警備員
      たちに近付いていった。すると彼らはいきなり黒マントの男が現れたため驚き、銃を構えた。

      「これ以上山へ近付くな!」
      「・・・ほう、どうしてだ?お前たちは神羅の者ではないだろう?この山は神羅が買い取ってるものだ。お前たちが
       指図できるほどの権限を持っているわけでもあるまい」
      「うるさい!この山はもう、イリアム市長のロット様のものである!神羅のものではない!」
      「俺に盾突く気か?」

      セフィロスは正宗を手にしようとしたが、しかし彼の携帯電話の呼び出し音が鳴ったため、セフィロスはチ、と舌打ち
      するとその場から消えうせるように走って行った。残された警備員達は、彼の尋常ではない動きに、自分達の主の
      姿と重ね合わせた。




      「イリアムという街はどうやらロットという人間に支配されているようです。街の様子もどこかおかしい」

      セフィロスは街に辿り着き、しつこく着信音のなる電話に出た。それは社長ではなく、まだ幼さの残る副社長のル
      −ファウスであった。

      『悪いがセフィロス、そのロットという男を始末しておいてくれ。その男は神羅に逆らったんだ。そいつを殺せばイリ
       アムに平和とやらが訪れるんだろう?そうすれば神羅がイリアムに介入する大義名分がたつ』
      「ほう・・・それは父上からの命令ですか?」
      『私を怒らせたいかセフィロス?私は副社長だ。これは副社長命令だよ』
      「・・・仰せのままに」

      セフィロスはそのまま電話を切ろうとした。社長と話すのも嫌いだが、この我侭息子とも話すのもうんざりしていた
      のだ。しかし、電話の向こうからルーファウスの『セフィロス、待て』という声が聞こえてきた。

      『おまえのいるイリアムには、最強魔法が使えるというマテリアがあるらしい。それも取ってきてほしい』
      「・・・最強魔法?」
      『ああ、詳しくは知らないが・・・ほとんど伝説と化している。しかしもし実在するなら必ず取ってきてくれ』

      そんなものはタークスに頼めば良いものを、とセフィロスは心の中で舌打ちし電話を切った。戦うことは嫌いじゃな
      い。むしろ自分は調査よりも戦闘の方が合っている。それは社長も副社長もわかっているはずだ。しかし同じソル
      ジャーのザックスと比べれば、やはり自分の方が調査に合っているのだと思う。

      「・・・ロット、か。聞いた事のある名だな」

      セフィロスは呟き、一先ず情報収集にと近くの宿屋へと入って行った。