セフィロスは宿屋で実に興味深い話を聞いた。それは、このイリアムの前市長はロットという常人とは思えない程
      剣技に優れた男に殺され、その市長の娘は彼に捕らえられてしまったのである。そしてロットは街を支配し、魔晄
      炉のエネルギーを吸い取りマテリアを創りだしているというのだ。

      (まさに神羅の反逆者だな。魔晄炉を勝手に利用するとは・・・神羅に逆らうとは、そのロットという男は随分と自分
       の腕に自信があるのか)

      セフィロスは久々の手強そうな相手に多少の興奮を覚える。仕事だとわかっていても、ただの弱虫を殺すなどそれ
      ほど後味の悪いものはない。セフィロスは宿屋のベッドの上で愛刀正宗を見つめながらそう思っていた。携帯電話
      のディスプレイを見てみても、会社からの連絡ももうない。彼はゆっくりと立ち上がり、宿を後にした。向かう先はロ
      ットがいるという大きな屋敷。前市長が住んでいたところだ。セフィロスに策はない。そのマテリアを探すのも仕事
      のうちだが、邪魔者はすぐに消すのが常識だ。セフィロスの瞳は、魔晄エネルギーで満ちて青く光っていた。





      
First Contact  2 邂逅





      檻に手をかけてみる。けれども、私のこの非力な手ではどうすることもできない。力が入らないのだ。哀しみが私
      を覆い、全てを奪う。楽しみも、思い出も、力も、全て。どうしてこの苦しみだけは取り去ってくれないのだろうと思う。
      ここに閉じ込められたのもいつのことだったのか。随分と経ったような気もする。それに、どうして私がこんな所にい
      るのだろうか。あの男は私の何が気に入ったのだろうか。力だろうか。権力だろうか。それとも・・・。

      「どうすることもできない、か・・・」

      誰かが助けに来ることはないだろう。これが私の運命。受け入れるべきなのだろうか。私は目を瞑って眠くもない
      のに眠りについた。

      夢の中。夢とは不思議なもので、しばらく忘れていたものがぱっと現れてくる。霧を掻き分けるように進み、もやの
      向こう側を目を凝らしてみた。どうしても辿り着けない。銀色の霧が私に絡みつき、決して放そうとはしない。嗚呼、
      あれはいつのことだったか。あの霧の向こうに居る人に出会ったのは。口元に笑みを浮かべ、人を馬鹿にしたよう
      に笑うあの男は。

      『こんな場所をお嬢さん一人で出歩くなんて危険だぞ、と』

      赤い髪、スラム街。なぜだか雰囲気にぴったりの人間だった。でもこの人だけは何にも縛られていないような気が
      したのだ。どこかに属していても、心だけはいつもまっすぐで。

      これは恋?まるで王子様のようなあの人。赤い髪が燃える太陽みたいで素敵だと思った。もしもあの太陽のような
      人が私を助けてくれるなら。名前も知らないあの人が。



      「誰かが侵入したぞ!」

      いきなりの大声に私は驚いた。この屋敷の警備員、つまりロットの部下が叫んだのだ。彼らはバタバタと走り何や
      ら慌てている。それも当たり前だ。侵入者だなんて、そんなことは今まで一度もなかったのだ。

      (まさか・・・彼?)

      「そんなわけないのに、ね」

      思わず苦笑が漏れた。しかし、その侵入者は何が目的でここにやって来たのだろう。私が目的などありえないこと
      だから外すとして、考えられるのは二つ。ロットの命か、『あの魔法』のマテリア。あるいは両方かもしれない。

      「この娘も一応見張っておけ。逃げられないようにな」
      「ああ、わかった」

      警備員達はそう会話して、一人牢屋の前に警備員を配置した。彼は強靭な肉体をしており、普通の人間ならば一
      ひねりでやられてしまうだろう。拳銃もちらりと懐に垣間見えた。そして彼は他の警備員から渡された私の食事を牢
      屋の中まで運んできた。ゆっくりとした動作で。私が女で、しかも丸腰だからだろう。完全になめている。

      ここで逃げたらどうなるのだろう。今まではロットがいたし、私一人ではたぶん不可能だった。でも今なら。侵入者
      の騒ぎで私の逃亡までそこまで手が回らないかもしれない。

      そう思うと、私の体は勝手に動いていた。

      巨漢の腹を殴り、蹴り上げた。すると奴は牢の天井まで吹っ飛び、床に打ち付けられ動かなくなった。本当に油断
      していたらしく、すぐに気絶してしまった。

      「この剣も返してもらうね」

      牢屋から出て、壁に立てかけてあったケアルガのマテリアぐらいしか装備されていない剣を取る。ロットも一応用
      心したのか、ファイガやサンダガのマテリアは外されてしまっていた。だけどこれだけで私には十分。ロット相手に
      はつらいかもしれないが、下っ端なら剣の風圧でも倒せる。

      「小娘め、いつのまに・・・!」

      ロットの部下達が大勢出てくる。彼らはロットの命令で銃弾を私に向けて撃ってくることはできないから、警棒で攻
      撃してくる。それを剣で受け止め、弾き飛ばした。元は私の家だったこの屋敷の壁に男達がぶつかりヒビが入るが、
      そんなことには構っていられなかった。すばやく動き、彼らの何倍もの力を持つ私に敵う者はいない。

      裏口から逃げ出そうと走り出した途端、私の後ろの壁が破壊される音を聞いた。ガラガラ・・・と音を立て、虚しく屑
      が崩れ落ちる。その向こうに居たのは、太陽でもなんでもない。見えたのは、夢の中で絡みついてきたもやのよう
      な銀色。銀色の髪の毛が流れ落ち、顔立ちもはっきりと見えてくる。

      美しい。

      これほどまでに美しい男の人をかつて見たことがあっただろうか。細長い剣を片手に持ち、佇んでいる。

      ああ、彼は、月のような人だ。