セフィロスは屋敷の前に立っていた警備員を造作も無く斬りつけ、屋敷の中へと入って行った。豪華なその屋敷は
      不気味な静けさを纏っている。電気のついていない玄関へ辿り着くと、さらにたくさんの警備員がセフィロスを襲っ
      た。しかしセフィロスは警備員たちの合間を通りながら、軽々と彼らの体に正宗で傷をつけていく。無駄の無い動き
      は見る者を圧倒させるが、残念ながらそれができる者は只一人としていなかった。皆セフィロスが目の前に現れた
      瞬間に地面に倒れるのだから。

      「何とも手応えの無い連中だ。これが本当にガードか?」

      コツコツ、とセフィロスの足跡が響く。ロットの気配を探りながら彼は薄暗い廊下を通っていく。立派な骨董品や装
      飾品が色々と並べてあるが、セフィロスにとっては単なるゴミでしかなかった。もしここにいるのが自分ではなく、
      あの副社長なら持って帰るかもしれないが。

      (・・・あともう少し、というところか)

      セフィロスはそんなことを思いながら歩いていた。何ならロットをこの屋敷ごと破壊してしまえばいいのだが、もしこ
      こに最強魔法のマテリアがあるのならそれはできない手段だ。

      『市長の娘さんも可哀想にね』
      『ちゃんでしょう?あんなところに、ねぇ・・・』

      なぜだか、セフィロスはふと街で聞いた話を思い出した。市長の娘がロットに捕らわれている、と。なぜ今思い出す
      のだろうかと彼は考える。彼女はこの屋敷にいるに違いない。しかしセフィロスはルーファウスから娘を助けろと言
      われてはいないのだ。

      「ただの小娘だ。どうせ何の役にも立つまい」

      セフィロスはそう呟くと刀を抜き、真後ろからの殺気と対峙した。




      First Contact  3 白兵




      黒い髪の美青年がセフィロスの前に現れた。ルーファウスを黒髪にしたような奴だな、とセフィロスは思った。しか
      し決定的にルーファウスと青年が違う事は、力量だ。セフィロスは一目見て彼がロットであると見抜いた。青年には
      どこか不思議な感じが漂う。

      「魔晄を浴びた者・・・か」
      「君もね」

      ふ、とロットは不敵に笑う。腰には正宗と同じくらい細く長い剣が差してある。それに手をかけ、ロットはセフィロスに
      語りかけた。

      「この街に来た目的は何かな?俺の命か?それとも・・・マテリアか?」
      「両方だ。最強魔法のマテリアはどこにある?」
      「生憎だけど知らないね。俺もそれを探してる最中なんだ。この屋敷にはないよ」

      ロットの瞳が妖しく光るのをセフィロスは見た。引き込まれそうなその瞳は、セフィロスと同じようでどことなく違う。
      辺りに緊張感が走るが、二人とも恐怖感にとらわれるような人間ではない。

      「俺は君をここで殺さなくてはいけないね。死ぬ前に聞いておこうか・・・君の名前は?」
      「セフィロスだ。死ぬのは俺じゃない。おまえだ」
      「君も言うね。そうか・・・君が英雄セフィロスか。顔は知らなかったが、噂はよく聞いていたよ」

      ふ、とロットは突然姿を消し、セフィロスに斬りかかってきた。それをセフィロスは難なく正宗で受け止める。ロットの
      攻撃は神羅兵のと比べ物にならないほど重く、強い。

      「どのソルジャーよりも強いとね。・・・でも、俺とくらべるとどうかな?」
      「おまえのその自信を壊してやろう」

      セフィロスは次々とロットに攻撃をしかける。それをロットは避けたり己の剣で防いだ。セフィロスはここまでロットが
      やるとは正直思っても見なかった。

      (この男、ザックスと同等かそれ以上かもしれん)

      ロットと同じく黒髪の男の顔を思い出す。ザックスはお調子者な部分もあるが、闘いのときは頼りになる。セフィロ
      スはふっと嘲笑した。

      「何がおかしい?」

      ロットが眉を顰め、尋ねた。自分が一番強いと思ってるだけに、セフィロスのこの馬鹿にしたような行動が彼には許
      せなかったのだ。

      「いや・・・俺も早く仕事を終わらせたいのでな。本気を出させてもらうぞ」
      「・・・本気、だと?今まではお遊びだったって言うのか?」

      馬鹿にするな、とロットは大声を出そうとしたとき、セフィロスはその前に屋敷の壁に斬りかかった。

      「・・・何をするつもりなんだ?」

      ロットの呟きも虚しく響き、セフィロスが斬りつけた壁はいとも簡単に崩れ落ちながら、細切れにされた壁がロットに
      向かって吹き荒れてくる。それをロットはバリアで防ぎ、ある事を思い出した。

      (しまった・・・あそこには・・・あの壁の向こうは・・・)

      大切な自分の宝物をロットはしまった。セフィロスが斬りつけたあの壁の向こうに。ずっと欲しかった宝物。美しく輝
      く『彼女』は、どのマテリアよりも魅力的だった。

      「やめろ!」

      セフィロスは壁を斬りつけ、その隙にロットに攻撃を仕掛けるつもりだった。だが、何かがおかしい。何かを感じる。
      セフィロスは自分が破壊した壁の向こう側を見た。するとそこには、剣を持った少女が立っていたのだ。女性、とも
      呼べるかもしれない。その微妙な年齢とまっすぐな瞳はとても魅力的だった。もちろん、セフィロスにとっても。