ずっと独りで寂しかったの、と台詞をこぼせば「今は独りじゃないでしょう?」と静かに
微笑む貴方がどんなに私にとって大切か、貴方もわかっていたはずなのに。
心はゆらゆら揺れて
昼か夜かもよくわからないグアドサラム。ベベルにいた頃は爽やかな鳥の鳴き声で目
が覚めていたのに、今はシーモアの声で起こされないと起きられない。でもそれなの
に今はそのシーモアさえ傍にいなくて、屋敷に仕えてる女中に起こされる日々。
「様、朝でございますよ」
「・・・・・・シーモアはいつになったら帰ってくるの?」
「日にちまでは伺っておりませんが、おそらく明日かと・・・」
そう、と短く返事をしてベッドから起き上がり靴を履いた。着替えるから、と女中を部屋
から追い出して、クローゼットから服を手に取りながら溜息をつく。
あと一週間ほどで、私はここを出て行く。6年もいたシーモアの屋敷から。数ヶ月前に
シヴァを入手してやっと従召喚士から召喚士になれた。本当はすぐに他の寺院へ出
発しなければならなかったのに、シーモアはそれを反対した。
『まだと共に時を過ごしたいのです。それに、ガードもまだ決まっていないのでしょ
う?』
何を呑気な、と思ったけどシーモアとゆっくり過ごせるのもこれが最後かもしれないと
思うと、彼に逆らう気は失せてしまった。召喚士の最期くらいはちゃんとわかってる。
だけどガードが決まっていないのはまずい。
『シーモアがガードじゃ駄目なの?』
『ええ、申し訳ないんですが・・・老師としての役目があるのでこればっかりは』
とりあえず一週間したらガード探しとバハムートを入手するためにベベルへ行こう。ジョ
ゼ寺院に行く前では人の多い村はないから、ガードを探しにくい。
「ただいま戻った」
甘く心地のいい声が私の耳にも届いた。着替えようとした服を手に取ったまま部屋か
ら飛び出して階下のエントランスを覗いた。勢いがつきすぎて持っていた服が手から
滑り落ち、花びらのように舞ってそれはシーモアの足元に落ちる。
「おやおや。、まだ着替えてもいなかったんですか?」
「おかえりなさい、シーモア」
私の服を拾い上げ、ゆっくりとした足取りで階段をのぼってくるシーモアに笑みを送った。
シーモアも穏やかに笑っていて私の頬に手を添えて、もう片方の頬にキスしてくれた。
「明日帰ってくるって聞いたのに」
「わりと早く任務が終わりましたので」
「どこへ行ってたの?」
「キノコ岩街道の開けた場所に。機械で『シン』を倒そうとミヘン・セッションなるもの
を見届けてきたのです」
「機械で?・・・それ、成功したの?」
「失敗しました。やはり『シン』を倒すには究極召喚しかないですね。大勢の犠牲が
出てしまい辛い結果となってしまいましたが・・・」
シーモアが痛々しげに眉を顰め、それから哀しそうに私に笑いかけた。私も同じ表情
をするしかなく、やっぱり私が命と引き換えに『シン』を倒すしかないと思った。
他の召喚士よりも早く『シン』を倒したい。私の両親を殺した今の『シン』を。6年前に
私をひとりぼっちにさせたあの忌まわしき魔物を。
「そういえば、ミヘン・セッションでユウナ殿にお会いしましてね」
「・・・ユウナ?もしかして、あの大召喚士ブラスカ様の娘の?」
「ええ、伝説のガードのアーロン殿とご一緒でしたね。他にもガードの方が4人ほど」
「そんなにガードがいるの?」
ユウナは私にとっては最大のライバルなんだと思う。今、一番大召喚士に近しい者。
スピラの人々もそう思っている。私の存在はほとんど知られていないし、召喚獣もシ
ヴァしか持っていない。何だかすごく悔しい気持ちになる。嫉妬しているのかもしれな
い。こうやってシーモアの口から名前が出るだけでも心の中がぐちゃぐちゃになり、顔
が歪んでいるのがわかる。しかも、アーロン様までガードにつけて。
「焦る必要などありませんよ。あなたはあなたのペースで旅を始めればよいので
す。最後に『シン』を倒すのは、本当に強い力を持っている召喚士のみ」
「じゃあシーモアは、ユウナより私の方が素質があると思っているの?」
「そうですね・・・には強い意志がある。ユウナ殿ももちろん強い意志を持っておら
れる。どちらに、と聞かれてもすぐに答えはでません」
シーモアの表情は読めない。それが本当のことなのか、ただ口から出たでまかせか。
でも彼の言葉にすぐ頷いてしまったり、嬉しく思ってしまったり、何て私は単純なんだ
ろう。だから今でもユウナに対して嫉妬を感じてる。
「しかし、は従召喚士としての期間が短かったにも関わらず、すぐにシヴァに祈り
が届きました。これはの才能と努力があったからです。なので今のところは、
の方が大召喚士への道は一歩リード・・・でしょうね」
そう言ってシーモアは私の唇にゆっくりと彼自身の唇を寄せた。触れた唇と甘い言葉
に私はクラクラと眩暈を感じた。甘美な毒が体中を廻っているようだ。しばらくしてから
シーモアの舌が私の口内の中に入り、何度も何度も角度を変えて深くキスを繰り返し
た。私は彼の背中に手をまわし、彼の左手は私の背中に、右手は服の中に入り、私
の胸へと辿っていく。
「ベッドへ行きましょうか」
長い口付けが終わった後、シーモアが私の顔を覗きこむようにして聞いた。私はそれ
に従って頷いた。嫌ではなかったから。それほど私はシーモアを愛していたのだから。